大谷翔平

素晴らしかった.オープン戦のころ「完全体になった大谷翔平の本当の力でMLBを震撼せしめて欲しい」と書いたが,本当にやってのけた.凄い!

左手の甲が通常より少し正面を向くように(本来右手で持つらしいが,神職が持つ笏を左手で持ったような感じ)バット握ると,振った時に左手が伸びず肘が脇腹あたりに突っかかり,バットが肩幅方向に平行になった状態から上手くフォロースルーまで持っていけない.普通のバッターではこの打ち方で打球をフェアーグラウンドに飛ばすのは難しいと思うが,強靭な背筋を使いとんでもない反応速度で体を回転させられる大谷は,内角の厳しい球をレフトスタンドへ飛ばすことができる.これができるとピッチャーは内角に投げられない.外角低目で変化する球を見極められれば活躍すると書いたが,それはこのようなバッティングをしていたからだ.ピッチングも重心の位置が少し変わったことで体の各部の連動がスムースになり,力むことなく速球も変化球もキレが増していた.怪我で2年近く投げていなかったため初めの頃は少し苦労していたが,馴染んできてからは安定していた.

賢い大谷のことだから,来年は,後半引っ張り傾向がなかなか修正できなかったバッティングを改善して臨むに違いないし,ピッチングに関しても,更にバランスを安定させられるように太ももからお尻まわりのトレーニングを積み,緩いカーブかチェンジアップを操れるようになって臨んで来るのではないだろうか.怪我さえなければ,対戦相手の対策の上をいく改善を果たして,今年以上の成績に繋げるように思う.今から待ち遠しい.

今シーズンはもう一つ楽しみがある.楽しみというより興味深いイベントが残っている.アメリカが大谷翔平をどう評価するかだ.保守傾向が強く人気を落としていると言われるMLBだが大谷をどう見るのだろう.凄い成績を残した大谷だが,結局ノンタイトルで終わった.大谷を評価しないとすればこの点をマイナスとして重視することは間違いない.そうだとすると,MLBの人気回復は厳しいだろうし,それはアメリカという国の衰退の現れだと思う.この国の最大のストロングポイントは新機軸を次々打ち出して繁栄を遂げてきたことに尽きると思う.もし,MLBのルールを変更させるような試みに挑むこの若者に今年最高の栄誉を与える度量を示せなければ,保守傾向はいよいよ脳の硬化を示しMLBは瀕死だし,大谷の試みをファンや市民が後押しできなければ,アメリカという国の最高の良心は失われ,未来に向けて新しいことに挑むファイティングスピリッツは最早失われてしまったと私は見る.

大谷の今年最後のホームランボールを拾ったのは子連れのマリナーズファンだった.この日,大谷の活躍もあり敗戦したことでマリーナーズはプレーオフに進めなかった.この親子のまわりにいたマリナーズファンの中には,そんなボールグラウンドに投げ返せという人もいたそうだ.しかし,この父親はこれだけは駄目だと思っていたという.敵ではあるが,将来バッターかピッチャーを選ばばければいけないという常識を乗り越えようとする大谷のファンでもあるそうだ.大谷の今年最後のホームランボールは隣にいる5歳から野球を始めた我が子の将来の希望の象徴であったのだろう.これが大谷翔平だ.

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